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アニメや本についての雑記です。オタクが書いてます。

君の名は。 口噛み酒と祭事の意味

  

 口噛み酒はお米をベースに、現役巫女JKの唾液を混ぜて作られるカクテルの一種である(大嘘)三葉は儀礼の中で、噛み砕いたお米を口から出すところを同級生に観られてしまい、それを気に病んで、来世は東京のイケメン男子として生を受けることを固く誓ったのだった。

 この口から食べ物が出て来るというモチーフや、それを見た同級生の反応は、どことなくオホゲツヒメの神話を想起させる。オホゲツヒメは口や尻から食べ物を出すが、その姿を見たスサノヲは汚いと怒って、オホゲツヒメを斬り殺す。ところが死んだオホゲツヒメの体から植物や蚕が生まれ出てきて、カミムスビがこれを取って穀物等の種としたという、食物起源の神話である。このように、オホゲツヒメは死と再生、つまり生命の連続性を体現する神様で、さらに産霊の神とも縁の深い神様である。

 さて、口噛み酒を持って御神体にお参りする途中に、三葉(瀧)は「身体の中に入ったものは、その人の魂と結びつく」とお婆さんから語られる。口噛み酒は一度三葉の身体の中に入ったものだから、三葉と結ばれた三葉の半身であるということが、ここで示される。

 お婆さんのセリフは直接的には口噛み酒についてのものだが、ここで三葉の身体の中に入った存在として、瀧くんの意識についても範囲を広げて語ることが出来ると思う。入れ替わりはすなわち、互いの身体の中に意識が出入りする現象であり、入れ替わりを通じて三葉と瀧は相手の魂と深く結びついた。「身体の中に入ったものは、その人の魂と結びつく」のだ。

 この後三葉(瀧)は御神体に口噛み酒をお供えして帰ってくるが、このシーンでもう一つ考えなくてはならない”身体”は、御神体そのものである。洞窟は御神体、つまり神様の身体であり、胎内である。洞窟は暗闇、穴、人を呑み込む空間であり、地母神の胎内として古来より儀礼の場とされてきた。三葉(瀧)はこの場所に入って、そして出て来るという手続きを通して、御神体そのものとも結ばれたのだ。ここで瀧くんが御神体との結びを得たことが、三葉との入れ替わりが切断された後、自分の体でもう一度この場所を訪れる際の下敷きになったのだと考えられる。

 三年後、御神体に再び訪れた瀧くんは、三葉の口噛み酒をのむ。ここでの口噛み酒は三葉の身体を経由し、御神体の中に入ったものであり、瀧くんが口にすることで、三葉ー御神体(隕石)ー瀧くんの全てを結びつけるものである。そして、回想を通して全ての始まりである1200年前の隕石の落下から三葉の生い立ちまでを知り、再び三葉と入れ替わる、超重要シーンに入る。

 ここで、回想シーンに入る前に、洞窟の壁に描かれた隕石の絵を瀧くんは目にしている。この洞窟の壁画から、宮水家に伝わる祭事の失われた意味について考えて行きたい。作中では、祭事の意味は繭五郎の大火のために分からなくなってしまい、今は形だけが残っているということがお婆さんから語られている。恐らくこの祭事の始まりは、1200年前に落ちた隕石に遡るもので、隕石の伝承を目的とするものではないだろうか。当時の人は隕石の落下地点に出来た洞窟を御神体とし、隕石の落ちる様子を壁画にすることで、いつの日かまた落ちてくることに備え、信仰と共に後世に記録として残そうとした。そして伝承の一貫として、隕石の落ちてきた日を祭りの日に設定する。祭りの日に偶然隕石が落ちて来たというよりは、かつて隕石が落ちてきた日を毎年の祭りの日と定めたというのが、正しい因果関係ではないだろうか。この隕石の伝承が、宮水の信仰であり、繭五郎さんが燃しちゃって分からなくなった祭事の本来の意味だと考えられる。